ハッカー教育について

私みたいな教育寄りのハッカーがこんなことを言うのはなんなのですが……(なので、このエントリはツイッターにも流していません)。


PCを不特定な少数に配ってもハッカー教育にはなりません。ハッカーは育てるものではなく「元から中にハッカー因子を持っていて、それを使える環境がそろって初めてなる」ものだと思われるからです。ハッカー因子を持っていない人間はどんなに教育してもハッカーにはなりませんし、ハッカー因子を持っていてもたまたまそういう環境にいなければ一生まっとうな人生を歩んじゃうと思います。
なので、全国民をハッカーにすることは出来ませんし、環境だけ作ってもハッカーには届かない可能性が高いです。なぜかというと、ハッカーの方がユーザーより圧倒的に少ないからです。ハッカーの多くは非コミュですし(この相関の理由がよくわからない。別にコミュ力抜群のハッカーがいてもいいのに)、非コミュに「不特定な少数」宛のプレゼントが届くことはまずありません。そういうのはもっと多数派でコミュ力ある人が既得権益として持って行くでしょう。
かといって、一般の人がハッカー因子を調べることは困難です。ハッカー非コミュが多いからといって、非コミュを無作為に選んでハッカーである確率はやっぱり低いです。全人口から無作為に選ぶよりはましでしょうが、非コミュで非ハッカーである人口の方が、ハッカーよりも多いでしょうから、あんまり解決にはなっていません。また、「現時点でコンピュータに興味がある人」はハッカー因子の測定には向いていません。なぜなら、そういう人がハッカー因子を持っているのなら放っておいてもハッカーになるからです(!)。教育する必要はあまりありません。
なので、効率よくハッカーを作るためには(正確には、ハッカーを発掘するためには)、全人口に対してコンピュータ教育を施して、ハッカーじゃない人にはそれなりの知識を、ハッカーには「確実にハッカーになる手段」を用意する必要があると思っています。このために必要なのはパソコン本体ではなく、出来れば教育手段や人材です。
ですが、実際にコンピュータ教育が出来る人間なんか限られています。また、現在の教育制度の中でコンピュータ教育は非常に優先順位が低いです(試しに図書館に行って小学校から高校までの教科書を読んでみてください。コンピュータのことが出てくる部分はほとんどありません。その上微妙に古いです)。
となると、執れる手段としては以下ぐらいな気がしてきます。

  • 全人口にコンピュータを行き渡らせる
  • 全人口にコンピュータ教育の教材を用意する
  • その上でハッカー因子のある人だけに見える記号を用意する

選別することが出来ないくせに、「ハッカー因子のある人だけに見える」なんてのが出来るのかって? できます。効率は悪いですが。意図したバックドアを仕掛けておくのです。ハッカーにしか見えないものを。バックドア経由で、ハッカーハッカーでしかできない方法論で教材の裏側にアクセスできるようになればハッカーはハックスキルを鍛えられます。また、ハッカーとして教育しなくても、ハッカー因子を持っている人ならばハックスキルを自主開発するはずです。逆ですね。ハックスキルを自主開発するくらいのことすら出来ない人は、元からハッカー因子なんか持っていません。


OLPCというプロジェクトがあります。100ドルPCと言う方が通りがいいでしょうか。OLPCというプロジェクト名ですが、これのPCはPersonal Computerではありません。One Laptop Per Childです。発展途上国向けに「可搬型コンピュータをすべての子供(主に小学生)に」というプロジェクトです。
OLPC自体はコンピュータ教育どころか、「コンピュータ」すらも関係ない「教育」のプロジェクトです。紙の教科書やノートよりも、発電機とネットワーク回線とコンピュータの方が教育コストが安くて効果が高い、ということからコンピュータを使っているだけです。あくまでプロジェクトにとってコンピュータはただの道具です。
が、このOLPCのコンピュータ、実はハックされることをものすごく意識しています(正確には、「当初は意識していました」。今は知らない)。
まず、当のユーザーが触れないソースはまずありません。や、一カ所だけあったんですよ。CPUを介さない無線LANの自律的コントローラのソース。そんな些細なところで大問題になるぐらい、ソースに触れることを意識していました。
もちろん、大半の小学生はソースなんか見ません。見なくても教育上全く困らないからです。大人も見ません。教える分にはなくても困らないので。
でも、ソースに興味を持ってそれを触る人を全く妨げません。そのなかに、もしハッカーがいたらうまいこと発掘できる可能性があるからです。ハッカー発掘はプロジェクト全体からすればほぼ無意味な作業ですが、ことハッカーである私たちからすると非常に大きな意味を持ちます。もしかしたら、そのハッカーが次代を担う可能性すらあるのですから。
……というところまで持って行かないとハッカーの発掘って出来ない気がするのです。


PCを配るのは何もまずいことではありません。コンピュータ教育に民間から人員を割くのも有りでしょう。でも、それがハッカーを発掘するためであるのなら、その夢はどうやれば実現できるのか、一応先行事例くらいは見ておいても罰は当たらないと思ってならないのです。
ついでに、ハッカーを発掘といっていますが、発掘されたハッカーが幸せな人生を送れるかどうかは私には判りません。私はハッカーやってて楽しいですが、世間の大多数を占める「リアルが充実している人」からは私は蔑まれていることをよく知っています。
出来れば、ハッカーが幸せになれる世の中がくるのならなおいいのですが。