iPadでNetBook市場が激減(らしい)

あー、まーねー。
そりゃ、減るんじゃないかねー。


NetBookの出自を考えると明白なのですが、OLPCがXO-1を作る際に「どこをどう削れば100ドルでノートPCを作って(税金で)配れるか?」ということを追い求めた副産物としてEeePCが生まれて、Intelがそれに乗って古いCPU(あんまり速くない、電池も持たない、けど安い)を作って、それを採用したPCを同じ用途で売り始めたってのが流れなので、「安いWindowsの動くノートPC」をはじめから指向していた訳じゃないんですよね。
そりゃまぁ、枯れた技術を水平思考で使おうとするとx86互換のSoCなCPUになって、OLPCが真っ先に「OS高いからWindowsやめ。だいたい、今時のWindowsでは動かすのに性能足りない」と切ったところを「ほとんどただ同然でWindowsXPをライセンスする」という荒技でWindowsPCとして売ったら当たっちゃったというのが今の立ち位置だしなー。「高いから」は何とかなったとしても、「性能足りない」ってのはどうにもならないし(OLPC XO-1初期バージョンはメモリもSSDも少ないので、そもそもWindowsをインストールすること自体無理だったし)。Dellが試しにUbuntu版を出したら不評だったのも今の流れを加速してます。というか、低性能、単機能な環境にWindowsアプリインストールしようとすれば、そりゃUbuntuは不評だろうよ。Windowsアプリを使わない限りは英語圏では困らないと思うんだけど。


Windows自体は汎用OSとしてはよくできてると思います。色々欠点はありますが、WindowsXPなんかはきちんとチューニングするとよっぽどしょぼいマシンでもそれなりに動くし(生でインストールすると重いと思う。日本みたいなマルチバイト文字圏だとフォントキャッシュをメモリに展開するのは致命的)。
でも、Windowsが動くからといって、Windows用ソフトが動くかというと何とも。ブラウザはIEが載ってるし、メーラはOutlook Expressが載ってるので、最低限の機能は使えます。ここで止めとけばいいものを「じゃあ、MS-Officeも」「やっぱPhotoshop」みたいな使い方をし始めちゃうととたんに「なんか使えない機械」に成り下がります。別にOpenOffice.orgGIMPでもいいですよ。どっちも同程度には重いし。FirefoxThunderbirdでも別に状況は変わりません。
Ubuntuを採用したマシンでも「汎用OSのふり」なんかせずに「単機能端末」として売り出せばたぶん不満はあまりでなかったと思います。とはいえ消費者が求めていたのは「まともにWindowsが動いて、なおかつ安いノート」というちょっと無理難題だったので、どんどんキメラ化が進んでいって、IntelAtom NシリーズというキメラきわまりないCPUシリーズで消費者の期待に応えていった結果、元々持っていたコンセプトからかけ離れてしまい、そこに「私は単機能だけど通信できて便利」とiPadみたいなコンセプトはっきりしたものがくれば、そりゃそっちに行くでしょう。何でも消費者のいうことを合議やマーケッティングで取り入れていけばうまくいく訳じゃないですし。


何も「単機能だけど通信できて便利」という端末が新しいコンセプトではありません。たとえばTRONの坂村先生なんかは10年以上前から「PCという枠組みはなくなってPCが占めていた汎用デバイスが空気みたいな扱いになる」とずっと予言してましたし、実際、ガラケーはその方向に進んでいます。iPhoneAndroidみたいな先進的な端末じゃなくても、一般市民としてはユビキタスネットワーキングはiモードサイトであり、CHTMLで作られた各キャリア対応の携帯サイトです。
メールといえば携帯電話を指し、メールが本来持っていた「時間軸のシフト」機能は「返事をすぐに返す」という文化のせいで意味が無くなってきました(夜遅くにメールを出すのは彼らからすれば「非常識」らしい)。
で、そういう人たちからすると「単機能だけど豪華で、今までの延長線上に確実に未来がある」ということがわかりやすく見えるiPadみたいなデバイスは魅力的に映るでしょう。値段がNetBookと同じくらいなら、未来が見えた方がいいですよね。携帯サイトも見られない、メールもプッシュされない、その上いつも使ってるパソコンよりもずっとしょぼいNetBookよりも魅力的です。


本当ならば、PCの業界的にはWillcom D4とかの方向に進むべきでした。汎用機は汎用機なりの良さがあり、汎用機であるということに大きな意味を見いだしながら携帯電話と同じだけの機能を持っている、というのが理想です。
が、こっちの方向にはいろんな制限があってほとんど誰も来ませんでした。着信やプッシュメールまで対応した(実はしてるの! 誰も気づいてないけど)Willcom D4や3Gの回線に対応したLoox U(こっちはプッシュメールには対応してない)みたいなものはありましたが、いかんせんニッチです。
なにせ、Atom Zシリーズはかなりがんばってはいますが電池の持ちひとつとっても携帯電話の変わりにはなりませんし、値段の割には性能は今ひとつです。性能/値段の比でいうとAtom Nシリーズに全然かないません。その上高いとなれば、まぁ、お客さんは限られます。


どっちにしても、NetBookって「対コストパフォーマンスの顧客満足度」の大変低い商品だと思うのですよ。売られている数の割には。「メインマシンを持ち歩く」という先進的ユーザーにのみ許されていた方法論を一般市民まで押し下げたという功績はありますが、「パソコンに対する失望」を呼び起こしてしまったのはさすがに問題でした。これが元から「パソコン」じゃなければ失望はなくてよかったでしょうし、「パソコンじゃなければ」のAppleなりの回答がiPadなんだろうとは思っています。そういう意味ではiPadは大変うまいですし、これがヒットする理由もわかります。FlashJava Appletが動かないからといって文句を言う人は少ないでしょうし、逆にFlash蔓延を食い止める役目すら果たすかもしれません(Java Appletは元から眼中外ですか、そうですか)。
ただ、個人的にはAppleのアプリケーションに対する態度はあまり好きではないですし、開発者とコンシューマを完全に分ける(ここがiPad最大の特徴だと思う)というのはコンピュータの未来にとってはマイナスだと思いますので、「単機能タブレット」というか「ユビキタス端末」としてのAndroidには非常に期待しているのでした。Androidは単機能と汎用性のうまい折衷案だと思いますし、何よりも開発者とコンシューマの垣根が大変低いので(これで、AndroidMarketのディベロッパー登録に年1万円かからなければなおよし。あ、パッケージ名の問題があるか)、こっちの方が普及して欲しいと思ってはいます。ま、ソース配布もしくは無署名apkの配布も出来ますが。あとは、フル機能のセルフ開発環境が有ればいいんだけど、ちょっと今のフォームファクタでは無理かな? AndroidノートやAndroid STBが一般的になれば現代のMSXになるかもしれません。
現代のMSX? なんか、とたんに「出した瞬間にすでに敗北」感がするのはなぜだろう(^^;)?