プラネタリウムを作りました。

読了。
「ひとりプロジェクトX」としても面白かったですが、それ以上に技術的に気になっていたことがいろいろ解説されていて面白かったです。


素人(含、自分。分野によっては)が工業製品を作る際にどうにも実現できないことというのがいくつも存在します。例えばそれは連続稼働に耐え得る信頼性だったり、問題が起こった時のトラブルシュートやそのある程度のリカバリだったり、いざと言う際の保障だったり。
メガスターの話を初めて聞いた時、一番気になったのはスペックよりもその辺のすごく面倒な部分をどうやって乗り越えているのかということでした。なにせ、何度も公演をこなし、そのうえ一日何度も投影するためには工業製品に備えられうる最低限の、でも実現するのはすごく難しいクォリティが求められるでしょうから。


具体的には以下((当然のことながら、これは「非機能要件」をキーにその筋に関しては素人の Florian が当時想像した部分で、有効な項目かどうかは検証の余地はあります。プラネタリウムを作りたい人はチェックリストとしては使わないでね(^^;)))の部分を気にしていました。

  • 放熱
  • 可動部分のキャリブレーションと強度
  • 電源の信頼性
  • レンズと星夜原版の保定
  • 防塵対策
  • 星夜原版の光耐性
  • 制御部分のエラーハンドリング
  • トラブル時のリカバリ

メガスターの実物を見た時に「あんなに乱暴に(制御的に、ね(^^;))扱っても大丈夫なのか」と感心するぐらいだったので、かなりこなれている印象は受けたのですが、本書を読むと案の定一つ一つぶつかってはなんとかこなしということを繰り返して来たのだと言うことが分かって、至極なっとく。
いや、大平さんの今までを否定している訳ではなく、これらの物事って普通に暮らしていると絶対身につかない部分だと思うので、なんらかの形で会得しないとならない部分だと思っています。
たとえば、企業では新人に「深く考えずにこうしろ!」とたたき込んだり、信頼性や高可用性(非機能要件)を見かけのスペック(機能要件)よりも重視する風潮でブレーキをかけたりということをして先に挙げたような問題を一つ一つクリアしていますが、当然ながら一人でやっているとその辺は見えてこないと思います。
特に、大平さんがプラネタリウムを専業でやっている訳ではないという当時の状況から考えると、工業製品的なクオリティというものをそれまでの道筋でたたき込まれることも、空気に飲まれて無意識のうちにやって来たこともないだろうことが想像されて、その道程の長さを思うと、これからさぞかし苦労するのではないかと勝手に思っていたのでした。
でも、ひじょーに当然のことながら、あそこまでいろいろやる人は今までにもいやってほど苦労していていますやね。教育とか、企業風土なんてのは、効率よく会得するための方法論に過ぎない訳で、経験と、その考察をきちんと積み立てていくことができれば、まぁ、多少(っていうには苦労の桁がひとつ二つ違う訳ですが(^^;))手間はかかってもそこにたどり着くことはできますし。


と、どちらかというと学生からフリーの間にこの辺を思い知った Florian は大平さんに大変共感を覚えるのでした。
Florian もどこかでこんな話をたたき込まれた記憶はないのですが、ま、人よりちょっと多めの経験と、人よりちょっと多めの苦労が重なって、「プロって何だろう?」という意識をかなり大きく持っています。
ま、世にプロフェッショナルの人はたくさんいますし、 Florian が特別とは思いません。でも、どこかのプロ組織に直接属していない人は、自分の職種以外についてのプロ意識はどうしても希薄になるし、「趣味である」と言い切る事柄に関しては特に、プロとしての自分は隠れて甘い考えが行動を支配するようになるとも思っています。
そう考えると、大平さんって、法人化してばっちりプロフェッショナルとなった今はさておき、メガスターIの時からずっと、プロ意識を持ってプラネタリウムに接していたのだなぁ、と感じ取れて、微妙にお仲間としては嬉しかったりしたのでした。


Florian も、趣味が高じて職業にしちゃった「オタク上がりのプロ」の一人ではあります。
オタクはオタクなりにこだわりや、優先順位を上下させる方針などがあって、それが必ずいい影響を及ぼすとは限りません。
でも、プロ意識を持っているという最低条件がそこに有るのなら、オタクでしかできない何か、というものもきっとあるよなぁ、とオタクであることを隠そうともしない大平さんのナチュラルな姿勢が滲み出ているこの本を、やっぱり名著だと思う Florian なのでした。


でも、ほんとに大平さんってモテないの? 強烈にオタクっぽいというのは多少あるにしても、話も、見かけもかっこいい方なのに。
・・彼女の方はすぐに愛想を尽かすかもしれないけど(^^;)。ほら、「車より私を見て!」とか「楽器より私を見て!」とか、よくあるし。