シーン1344 9/27 夕刻 公園

「この期に及んで君は世界をひっくり返すようなデウス・エクス・マキナの登場を望んでいる、と」
「何だいそれは?」
機械仕掛けの神。ギリシャ悲劇で都合が悪くなって話のつじつまが合わなくなってくると降臨してバッタバッタとつじつまを合わせていく作劇方法だね」
「そんな大それたことを望んでいるわけじゃないし、つじつまの合わない物語を切り捨てるわけでもない。ぼくはただ、ほんのちょっとの未来が見たいだけなんだ」
「誰の?」
「…ぼくの、かな?」
「まさか。君はもう気づいているはずだ。エピソード記憶がすでに意味をなさなくなっている君自身の身の上に」
「ああ、わかってる。だから、僕は未来を選択したい」
「でも、未来は君の望むピースがあるとは限らない。未来は無限にある。その因果の伝播速度がすでに意味をなしていない以上君は無限の未来から望むものをつまみ上げる必要がある。それは砂漠にうずもれたピンの先を探し出すような作業だ。無限の未来は無限の時間を使って探さねばならない」
「…いや、違う。手掛かりはある」
「どんな?」
「空間における確率分布の山と谷があることに僕は気づいてしまった。ある軸で見た際の山の頂点と、別の軸で見た際の山の頂点が重なる場所はきっとあるし、僕はそれを見渡すことができる」
「ふーん。微分的解法だね。パラメータによって鞍点は変化するし、パラメータ自信を君は変えられると」
「変えられるかどうかはわからない。けど、うまくすれば見つけられそうな、そんな気がするんだ」
「あるパラメータひとつでカオティックなふるまいを示すこともあるけど、君はどうする?」
「かお…?」
「失礼。収束も発散もしない状態、と言えばいいのかな。君は収束する一点をつかみ取るつもりでいるようだけど、それを探す行為自体が世界を変化させてしまうのであればカオスはそこに発生する可能性は高い」
「でも、探さないと」
「まあ、試してみるといいよ。ただ、覚えておきたまえよ。答えが一意に求まる設問の方が現実世界には少ないということを」