企画原案と実装する人

KeyのRewriteをやっていて思うのは、お話の雰囲気とかキャラクターとかを考えた樋上いたるさんと、実際のお話の実装をした田中ロミオさんが微妙にあさっての方向を向いているなぁ、ということでした。
おそらく、樋上さんの頭の中では、キャラクターとか、断片的なシーンとかそういったものが何か形にならない感じで渦巻いていて、そのままでは企画自体を通すのも難しい状態だったのではないかと思われます。ギャルゲーなのに女の子が微妙に甘くないとか、アクションシーンがあるとか、てからなんかオーロラみたいなものを出してアクションするとか。
田中ロミオさんが参加した時点ではその辺の細かいことは何も決まっていなくて、ただ「部活動チックなギャルゲー」という部分だけがあったんじゃないかと。
で、田中ロミオさんが参加することが決まった時点で、それまでのゆるふわな設定を可能な限り生かしつつ、キャラクターの生き様や世界のあり方、全体としての物語の骨格を作り直すハメになって、いろいろな設定が絵面から後付けでついていったんだろうな、と思われます。
例えば主人公の設定。
初回特典の小冊子で思いっきりネタバレしてますが(あぶねー、やる前に読んじゃうところだった)、主人公は単なるいきずりの男ではなく、物語が始まる時点で目一杯ドラマチックな生活をしています。子供だった小鳥が高校生になるくらいまでずっと病院に監禁されていて、肉体的なところはともかく、脳障害と生まれてからの年齢は明らかにおかしいところから始めてます(で、これを隠してしばらくゲームは進む)。
小鳥ルートで脳障害のことをちょびっとだけ話されますが、実際の話は最終的な落ち(の、バッドエンド)まで持ち越し。
これらのヘビーな話が当初あったとは、到底思えません。主人公が年齢に対して絵面では若めにかかれている(これ、「主人公の顔のでる珍しいギャルゲーだなー」と思っていたら、種明かしがあってビックリ)とか、なぜあそこまで小鳥にべったりなのに小鳥がふしだらNGと言っているのかとか、樋上さんの原案に設定があったわけではなく、絵から逆算して、「年齢のわりに若く見える理由はなぜか?」とか「だったら本当の年齢は別にあるんじゃ?」とかどんどん後付けで話を膨らませて言ったんだろうというあとが見えます。
というのも、Terra編ではバッドエンドに行かないとどんどん歳を重ねていく主人公ですが、その顔が出ることはほとんどありません。きっと苦み走ったソリッドスネークみたいな感じなんでしょう、多分。
井上さんがストーリーに大きくからんでいるのに声だけしか出てこないのも「種明かしのためには必要だけど樋上さんの原案になかった」からでしょうし、Terra編のキャラクターのほとんどが顔を持たないのもあそこは原案になかったから、という理由が良く判ります。名前を変えて実は同じ人、とか、本編側で出てきたキャラの正体とか、いろんなところも多分同じ理由。
田中ロミオさん側からのキャラクターの発注がなかったという前提があるのであれば、色々つじつまがあいます(イベントシーンはさすがに発注されたと思う)。
「物語」がどこに宿っているのかはなかなか微妙な線です。シナリオライターは物語を文字や既存のグラフィックの組み合わせで表現しますが、必ず物語その物の作者とは限りません。Rewriteみたいに多分当初の原案をはるかに離れたところで種明かしをするという作りであることを考えると「物語」は樋上さんの中にもあって、それをシナリオとして定着させた上で、田中さんはその先に至る何かを提示したかったんだろうな、と推察されます。篝の立ち位置がふらふらしているのがちょうどその境目あたりで、「謎の少女」というだけの存在と、「何故なぞなのか」「主人公が謎の少女に惚れなければならない理由は何か」という乖離が結果としてMoon,Terraの中でずっとかかれつづけてきたことなんだろうな、と思います。
田中ロミオが一人で原案からストーリーの展開まで決めればよかった、とは思いません(それはそれで見たかったけど、多分今のRewriteとは大幅に違ったなにかになると思う)。中二病セカイ系、ゆるふわな学園生活、破綻しているハーレムなど様々な要素を肯定した上で、「だとすると今出せる結論はこれ」という田中ロミオなりの回答がRewriteという作品のように思えてならないのです。
これがいいか悪いかはともかくとして、結論を保留しなかったという一点はさすがだと思います。