いつものふたり(出張版)

といいながら「クドわふたー」の話です。


「やったか?」
「おお、ひさしぶり。何ヶ月もオフラインだったからまたIP-unreachableなところに飛ばされてたのかと」
「いや、一応首都からは移ってないけどね。で、やったか?」
「何を?」
クドわふたー。そっちでも買ったんだろ?」
「あー、買った買った。同じソフト3本も買うのなんか初めてだったんで恥ずかしかったよ。店員にはじろじろ見られるし」
「転売屋だと思われたんだよ、それは。アジアに転売するのが流行してるっぽいし」
「あー、なるほどな。俺はてっきりオタクだと思われてるのかと」
「どうせあの手のソフトを買うのはオタクだよ。で、何でそんなことを?」
「ほら、例のKannonを不正コピーしてくれたやつが言ってたじゃん。『買うなら3本』って」
「なんでだっけ?」
「ええと確か……観賞用、保管用、布教用?」
「布教用のものを確保してたのに不正コピーなのか。よくわからんなー。で、やったか?」
「やったよ、だいぶ前に。しかしアレだな、ゲームといいながら全然選択の余地ないのな。今時のゲームってああいうものなの?」
「わからんよ。だって、この手のゲームやるの、それこそ10年以上ぶりだもん」
「そりゃそうか。海外で手に入れるの大変だもんな。今回よくわかったよ。しかし、ここ数ヶ月、ずっとアレやってたのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……。インストールから躓いてなー」
Windows Vista/7でなんか不正終了するとかいうアレ? マニュアルに書いてあった」
「あ、いや、そもそもWindows持ってないし。Linux上のWindowsエミュレータで動かそうとしてコピープロテクトに引っかかった」
「あ、なるほどね。そりゃ引っかかりそうだ。で、どうしたの?」
「仕方がないから解析したよ。PEなんか読んだの何年ぶりやら。i486の命令コードは判るんだけど、実効アドレスつかむまでが一苦労。何でLinux版が入ってないんだろうな」
「そりゃ商売にならないからだよ。そっちでどうかは知らないけど、Windowsのシェアは日本では絶大だからな」
MacOSXは今は日本ではどうなの?」
「そこそこ普及してる。けど、この手のゲームやる人はデュアルブート環境か、VM使って本物のWindows動かしちゃうから。でも、解析に数ヶ月かかったって訳じゃないだろ? 名うてのクラッカーだったおまえが」
「それは昔の話。今はしがないインフラ屋。もっとも、解析自体は3日で終わったけどね。たいしたコードじゃないし」
「じゃ、なんでまたこんなに時間が?」
「だって、時間かかるだろ、あのゲーム」
「そうか? 二周目は前半はスキップできたし」
「なにそれ?」
「え? スキップ使わずにやったの? 台詞は?」
「最後まで聞いたよ。仕方なく」
「なんだそりゃ」
「だって、本来の注文者がこんなことしてくるんだぜ」

「Take me that GbE cable over there.」
「はいです、リキ。わふー!」
「はい?」

「誰がリキじゃー!」
「ぶはははははは! なに、日本語で返されるんだ」
「もう、届いた次の日にはすっかり感化されてたよ。インターンで職場に来てるんだけど、日本人は俺一人だから日本語で話しかけられる相手が楽しくて仕方ないらしい」
「似てる?」
「声と演技は。ただ、何せ20代の現地のカラードだから、見掛けとはギャップありまくり。身長なんか180cmもあるんだぜ」
「あー、アフリカ系は体格もボリュームあるしなぁ」
「それが舌っ足らずなキンキン声でいきなり日本語で話しかけてくれば、そりゃー気にもなるだろう」
「わはは。そりゃすごい。その無駄な才能を生かさない手はないな」
「生かしてるらしいんだけどね。ええと、smile videoってのが日本では流行ってるんだっけ?」
「smile……あぁ、ニコニコ動画。そうか、おまえのところでは相変わらず帯域幅足りないのか」
「そこに、クドの声をOffにした動画を作って、クドを自分でアフレコしたものを投稿しては10万ビューいってるらしい」
「どこから投稿してるんだ?」
「大学。一応本業はドクターコースだから。あの、各キャラごとに音声を切る機能ってのはこうやって使うものだとは知らなかったよ」
「いや、それは使い方を間違ってるだろう。っていうか、冒頭の注意文でプレイ動画の投稿を禁じてたじゃん」
「見なかったことにしているらしい。で、第2弾が、本編でもしゃべってない主人公の声のアフレコ。これも8万ビューくらい行ってると、当人は言ってた」
「微妙に少ないのは何だろう?」
「女の子の声の方が人気あるんじゃないか? この調子で全員分を一人で演じてしまいそうな勢いだ。よっぽど気に入ったんだな、このゲーム」
「あー、そりゃ良かった。苦労して送った甲斐があったよ。国際送金は面倒だからお代は帰ってきたときにでもどこかでおごってくれ」
「判った。いつ帰れるか判らないけどな。で、どうだった?」
「なにが?」
「だから、クドわふたーの感想」
「あー、なんかこう、少女漫画? というか、ジュブナイル?」
「あんなポルノなジュブナイルがあるかい。というか、いまどきの少女漫画って、あんなにエロなのか?」
「いまどきのは知らない。妹が読んでたのだから、かれこれ20年くらい前のやつによく雰囲気が似てる。『カオール、巣の議会に謹んでご自愛の挨拶を』ってのでげらげら受けたよ」
「そんなのあったか?」
「あのロケット女が出てきたところ。昔の少女漫画で火星人が出てくるときの台詞を引用してるのな」
「そんなネタだったのか。全然判らんかった。俺としては、これの中身を見つかったらペドフィリア扱いされて熱狂的なキリスト教徒にボコられるんじゃないかとどきどきしてたよ」
ペドフィリア? これまた冒頭で登場人物は18歳以上って書いてあったぞ?」
「連中に日本語読めるわけないじゃん。主人公二人は幼児体型だわ、頭と目はでかいわ、どこからどう見ても小学生がエッチしてるようにしか見えない」
「でも、しているシーンよりもキスしているシーンの方が圧倒的に多かっただろ? キスくらい西洋文化では息をするように当たり前なんじゃないのか?」
「北米やラテンの国と一緒にするなよ。もうちょっと貞操観念がうるさいよ。基本カトリックだし」
「アフリカはよくわからんなー」
「それと、物理学的にあちこち間違ってるのも気になった」
「SFとは一言も言ってないんだから、そんな重箱の隅つついてもな」
「あと、メッシュネットワークってあんなに届かない」
「いや、PDAやら携帯やら使ってるからってIEEE802.11sとは限らんだろう」
「いやー、OLPC XOに苦しめられてる身からするとね……」
「じゃあ、つまらなかった?」
「いや……ここが微妙なところなんだが、ものすごく郷愁の念を抱いたよ。特にエンディングとか」
「あー、心温まるな、確かに」
「日本はいいな。いろんな意味で」
「そっちか! 宇宙の話はどうなった?」
「ぶっちゃけ、どうでもいい。大学の学食や、プールに金属ナトリウムを投げ込んで一夏使えなくした馬鹿とか、いろんな事思い出したよ」
「おまえの日本って、あのキャンパスなのな。実家じゃなくて」
「故郷ではなく東京の桜が恋しいって言うだろ?」
「やっぱりそこにたどり着くのか」