続水惑星年代記/大石まさる

10年ほど前のISAS(当時はまだNASDAと合併してなかった)の相模原キャンパスで、実用化前のイオンエンジンの噴射実験を見せてもらったことがあります。当時、すでにMUSES-C(発進してからは「はやぶさ」という名前の方が有名ですね)計画ではこのイオンエンジンを使うことが決まっており、連続稼働時間の世界記録を塗り替えていた頃です。
「これって、どれくらいの推力出るんですか?」
「8mNです(1Nは1kgm/s^2なので、8gms^2)」
「推進剤の荷電粒子はどうするんですか?」
「キセノンをタンクに持ちます。宇宙では調達できませんから」
「大気中だとジェットエンジンとして使えます?」
「窒素を荷電させればいけるかなぁ。やったこと無いので何とも」
「どのくらいの自重は支えられますか?」
「アルミ箔ぐらいなら」
「これ使って、風もないのに空飛ぶおもちゃとか売り出せません?」
「荷電粒子のジェット噴射、直接浴びると体に悪いですよ。一応放射線ですから」
「そっかー。それは残念」
ちなみに、電磁力(電子同士の反発)でアルミ箔を浮かせるおもちゃはあります。危ないのであんまり実験できませんが。


ついでにもう一つ。
20年ほど前、毎年夏休みになると牧場に泊まり込みでアルバイトにいっていました(コンピュータ専攻の学生が何やってるのやら。ちなみに近所に会津大があったので、その牧場のアルバイト生は妙にコンピュータ専攻が多かったです。泊まり込んでたのは私ぐらいでしたが)。
夏の暑い最中、観光客が山のように押し寄せてくる観光牧場で、馬の世話をしたり、羊の世話をしたり、牛の世話をしたり、引き馬をしてお客さんを乗せて回ったりしていました。
当時(いや、今でも)私は馬が大好きでしたので時間さえあれば馬と一緒にいようとする傾向がありました。すると、一日ずっと休憩なしで引き馬し続けるなんて日が何日も続きました。また、私が引くと馬たちの機嫌がいいので困ったときにはとりあえず私に頼るという風潮ができていました。牧場の専属のスタッフの人たちは忙しかったので(何せ、客が多い)。
すると。
半日もずっと馬と一緒に歩いていると、馬の気分と自分の気持ちの区別がつかなくなってきます。
「疲れたなー」
「お水飲みたいなー」
「あ、ちょっとおしっこ」
「ねえ、この客重くない?」
なので、馬が立ち止まる前に振り返って待つと、その場で馬がおしっこをしてからおもむろに歩き出す、なんて芸当ができるようになります。
「どうしておしっこしたいって判ったんですか?」
「いや、わかるよ」
わかんないって。
過酷な労働(で、当人にその意識がない)をしてトランス状態になっていたのもあるでしょうし、馬の気分に敏感になっているというのもあったでしょうけど、人馬一体ってのはこういうことを言うんだろうなー。
と、今なら思います。


さらに。
当時乗っていた車(ファミリアインタープレイ1.5)も、かなり走り込んでいたので4つのタイヤが今どれくらいの加重でどこの地面をつかんでいるのか、あたかも体の感覚が拡張されたかのように感じていました。これも人馬一体ですね。


さらにさらに。
17インチのディスプレイにa9,k9(かろうじて漢字が判別できるぎりぎりのフォント)を写して、Emacs-epoch(今のXEmacsより前にバッファごとにウィンドウをもてるように拡張したもの)のウィンドウを山のように開き、学内パソコン通信(でんでんネット)、IRCNetNews、BiffとMailを駆使してキーボードが止まること無いまま情報を垂れ流していたのも人馬一体ですね。マウスなんか邪魔でした。オーバーラップドウィンドウもあまり意味が無くて、画面はタイリングされたウィンドウで埋め尽くされてました。ウィンドウがオーバーラップするのは当時好んで使っていたMotifのアプリケーションをテストランさせるときだけ。場所覚えてくれないんだよね、MWM。
NetHackもかなり遊んでました。キーなんかヘルプを見なくても全部判りますし、暗い部屋は「斜め移動」を使うと効率よく探索できます。
で、たまにrootになってviをつかうときに、YUBN辺りを押して「なんでカーソルが斜めに行かないんだろう?」とか悩むという。hjkl養成ギプスですから>NetHack
普段はEmacsなので。


と、そんなことを考えた一冊でした。
よくわからん感想でした。