電脳戦機バーチャロンオラトリオタングラムに関するよくある誤解

某所でXBLA版について「Dreamcastからの移植だから、元がWindowsCEで楽だったんだろう」という話があって驚いたので慌てて。


わたしはセガの中の人ではありません。あくまでロゴなどの表から見える情報だけで判断しています。その上で他の情報も検証してください。
まず、DreamcastWindowsCEを使っていたタイトルは数えるほどしかありません。本体にでかでかと貼ってあったロゴは「WindowsCEを使ったソフトも動くよ」くらいの意味です。だいたい、セガはかなり強力な社内ライブラリを持っており、別のOSを使う理由はDreamcastにおいてはほとんどありませんでした。
ライセンシーにとっても、よっぽど積極的な理由がない限りはWindowsCEを使う必要はありませんでした。

  • (出始めの頃の激しく使いづらい)Direct3D-IMに開発者が慣れている
  • 高度なスレッド処理が必要になる(32スレッドまでネイティブで使えた)
  • DwangoもしくはMicrosoftと懇意にしているという政治的理由
  • 直近にWin32に移植する予定がある、もしくはWin32からの移植
  • Dwango製のネットワークライブラリを使う必要がある

また、WindowsCEを使ったタイトルはパッケージとメーカーロゴにその旨表示が必ずあります。Dreamcastオラトリオタングラムにはその表示がありませんので、使っていないものと思われます。


その上で、オラトリオタングラムは大きく分けて3バージョンあります。

  • 初期に流通していたM.S.B.S.5.2
  • ゲームバランスなどが改善されたM.S.B.S.5.4
  • ハードウェアが変更になったM.S.B.S.5.66

初期2バージョンはModel3基板上で動いていました。5.66はDreamcast互換基板のNAOMIです。見分ける方法は以下です。

  • 筐体(5.6はDreamcast用のVisualMemoryが刺さる)
  • アトラクト画面内のTV in TVのような演出があるかどうか(5.2,5.4にはある、5.6にはない)

後者に関しては、Model3よりも、NAOMIの方が少なくとも頂点演算性能で劣るということを示しています。
Dreamcast版は5.4の移植で、5.45と言われていました。おそらく、この時点でDreamcastに合致するようソースは作りなおされたものと思われます。ハードウェアの類似性を見る限り、5.66はこのソースをもとにリソースの追加とバランスの調整を行ったものと思われます。


以上より、今回XBox360のLive Arcadeでのオラトリオタングラム(M.B.S.S.5.66、つまり、NAOMI基板上のソフト)が、Windowsだからという理由で移植されたのではないことがわかります。少なくとも、「Windowsが共通だから作りやすかった」という理由ではありません。
ただ、XBox Liveは公開されている資料から見る限りでは、

  • マッチング
  • ランキング
  • 認証

などに関してはミドルウェアが吸収しているらしいので、今回これらの機能を新規作成する工数はある程度削減できたものと思われます。でも、それはMicrosoftXBoxチームがライブラリをうまく整備したために実現できたもので、原作がWindowsCEだったからではないはずです。
ついでに言うと、先ほど書いたとおりセガは社内ライブラリが非常に充実しているため、Windows用のライブラリを作ること自体は造作もないと思いますし、NAOMI基盤互換のライブラリをつかって、ほぼソース互換のレベルまで持って行っていると思われます。
ゲーム機上でプログラムを動かすのにOSレベルでのAPIの違いに意味があるとは思えません。XBox360は確かにWindowsNTベースのOSを使っていることになっていますが、あくまでカーネルと入出力(DirectX)だけで、ゲームに必要な高レベルな部分は別途必要です。この「高レベルな部分」を作るのがセガは歴史的な流れから非常に上手だというだけでしょう。
(追記)
バーチャロンシリーズの開発元と言われるHitMakerはセガの旧AM3研が分社化したものです。5.2開発当時はまだ分社していません。バーチャロンフォース、マーズの頃は分社化していました。
なお、セガ社内にはいろいろ流派(CS本家ライブラリチーム、AM独自ライブラリチームなど)があって、社内ライブラリも流派ごとに分かれていましたが、どこも高レベルなゲーム用ライブラリになっていました。