長文を打ち込む未来

テキストエディタなんか作っておいてこんなこというのはなんなのですが、W-ZERO3上で最も長文編集に向いている環境は、付属アプリの「Word Mobile」です。
無駄な再描画は行われないし、文頭に日本語で文字を挿入してもへっちゃらです(じつは、標準EditControlでも、IME経由ではない文字だとさほど問題ありません。いかにWindows Mobileが日本でテストされてこなかったかが良くわかります(;_;))。単体のアプリとしては大変良くできています。
ただ、これで書いたが最後、PCで見ても中途半端、PCで編集するとWord Mobileではさらにひどいことになる不思議ファイルが出来上がります。
書けはするけど、運用性がまるでなってないので、大事な文章は書けません。
まだ、LinuxZaurusに載ってたHancom Mobile Wordの方が「何もできない」っぷりがいっそすがすがしくて便利でした。


ほかにもいろいろアプリはあります。どうしようもないWindows Mobile標準のテキストコントロールに見切りをつけて独自実装している人たちは、やっぱりエディタのエディタとしての機能をきちんと見ていますやね。
UKEditorや(多分)JUSquidもそうなのですが、長文を打ち込んでも大丈夫ですし、長文の最初の方で日本語の入力をしてもへっちゃらです。
とくに、インライン変換による文字挿入をサポートしていないUK-EditorのnEditはある意味非常に快適で、標準EditControlにもこの機能があればいいのにとしみじみ思います。


前にも少し書きましたが、NotepadWMの開発の動機の一つは、微妙に標準EditControlと違うっぽい.Net Compact FrameworkのTextBoxでは、長文の入力周りのバグがWord Mobileのように取れているのではないかといういちるの望みを込めて試してみた、というのがあります。
もっとも、この望みはあっさり砕かれてしまったのですが(^^;)、だったら、「長い文章じゃなくてもいいので、たくさん書き殴るには」という方針の産物として、Techo互換やタブによる切り替えというものが生まれてきたのでした。
もっとも、こうして書いている雑文や技術資料だと文章を分割して書いても全然問題ありませんが、これが長編小説とかだと、文章のテンポが崩れてストレスなんだろうなぁ、とか思ったり。
章立てせずに一気に書きつづるタイプの作家さんなんかはWindows Mobileで書き始めると大変なのではないでしょうか。
……って、そういう人は仕事場への行き帰りの電車の中で立ったまま長文書き殴るなんてことはしないか(^^;)。


閑話休題
じつは、現代日本という時代背景は、今までの日本の歴史の中で、最も「文章」が消費されている時代なのではないかと思っています。
そもそも、Webを初めて知ったとき(実にもう10年以上前だ(^^;))「これからは全国区の同人誌を作り放題だ」と、今はなきJapan Edgeなどを見ながら思ったものでした。
情報発信に対するコストが劇的に下がり、特に発信用の情報の制作に最もコストがかからない「文章」というものにきっと皆が迎合するにちがいない、と。
はたしてこの未来予想はおおむね当たっていたように思えるのですが(2ちゃんねるや、自称ニュースサイトも含めて、ね)、その割には執筆環境って良くなっていないような気がします。
パソコンは相変わらず大きく、使うには大量の電気がいり、皆が持ち歩くようになった携帯電話も、入力メソッドこそいろいろ進歩していこそすれ、テキストエディタとしてはあまり使われていません。
たまたま私は今まで、小さい端末とといえば何でもかんでも「テキストエディタ」とみなしてしまう癖がついているので、文章を書き殴るための方法論にえらい意識的でしたが、実はこの「文章を書き殴る」という行為は私個人のローカルな用途ではなくて、使い方さえわかってくれば、爆発的に広がっていくんじゃないかと思っています。
みんながみんな、大量の文章を供給する(消費するってことは、どこからか供給されているってことと同義ですよね)現代においては、かつてのモバイルギアやオアシスポケットがどこかに置き忘れてきてしまった「どこでも文章がかけて幸せ」という未来こそが、目指すべき方向なんじゃないかと思ったりしています。
思いついたときに書き殴れる。空いている時間に書き殴れる。文章のクオリティや肉体的状況に由来する文体への影響などは全部さておき、何でもかんでも文章化する。
W-ZERO3のヒットを見ていると、結構な台数の出ているこの端末であれば、その未来の先鞭をつけられるような気がするんですけどね。
スマートフォンかどうか、ではなくて、単に「キーボード付きの端末」というその一点において。