使い捨てられる音楽

iAudio M3を買う前は、ポータブルCDプレイヤーや、Zaurusなどを使っていました。
Florian はほとんど家にいないので、音楽をしみじみ聞けるのは外出中だけ。
そんなとき、例えばCDプレイヤーを持ち歩くのであれば、外出している間に聞ける音楽はCD1枚分だけ。CDフォルダを持ち歩けばいくつかをもって行くことはできますが、かさ張るのは確かなので、できればあまり使いたくないのはたしか。
Zaurusに至っては、SDメモリはたいして大容量という訳ではないので、そもそも持ち歩ける音楽は少ないまま。
そんな中はもっていったCDを好む好まざるとにかかわらず、一日聞いてなくてはならない状況になります。いやだったらその日は音楽をあきらめることに。
そんな状況の中では、好きかどうかも分からないようなCDを手にいれるのは結構冒険です。音楽のない生活をするか、拷問のような音楽を聴き続けるかの二択。音楽がないと生活できないような気がしているFlorianからすると、「聞かない」という選択肢はあまり取りたくないので。
かくして、選択は保守的になり、一度聞き始めたCDはひたすらリピートするはめになるのでした。


じつは、この状況が変化するにはiAudio M3より前にもうひとつガジェットがあったのでした。
それは、「大容量リムーバブルHDD」です。
もとはノートPCを修理に出す間にデータ移送のためのつなぎとしてあわてて買ったものでした。もっとも、修理なんてのはすぐに治りますので、PCがかえってきてからはせっかくのHDDは宙に浮いていました。
なんとなくもったいないというそれだけの理由でHDDに手元のコレクションを全部コピーして、作業中に聞いたり、出先でZaurusのデータを差し替えたりして使ってみたところ、予想外に便利だって事が分かりました。なにせ、飽きたり嫌になったらその瞬間にヘビーローテーションを切り替えることができるんですから。いつでもお気に入りのものだけを聞き続けることができます。


iAudio M3が欲しくなったのはこの快適さに気づいてしまったからでした。全く同じことを、「データの転送」という処理を行わないままできれば、さぞかし便利だろう、と。
ま、実際にはいろいろ制限があって、完全に手元のコレクションをいつでも聞けるって訳ではなかったのですが、それでも、iAudio M3を買ってから、昔買ったきり10年以上も聞いていなかったCDをリッピングしてみたり、やたらと新規開拓してみたりし始めました。
長いこと聞いていなかったり、今までわざわざ手を出さないでいたくらいなので、取り込んだところでまじめに聞くかというと、まぁ、いろいろなのですが(^^;)、とりあえず、嫌になるまでヘビーローテーションという訳ではなく、さらっと2、3度なぜて、後は新譜も含めて全曲シャッフルで。また、シャッフル中に引っ掛かった曲は、そのままシャッフルを切ってアルバムの最初に戻してアルバムを最後まで聞くという感じ。
すると、長く楽しみにしていたCDですらも同じ形で消費してしまう自分に気づくのです。アルバムを切り替えるというコンテキストスイッチへのコストが少なければ期待や聞いている際中の満足度とは無関係に、意識としてコンテキストスイッチを求めてしまうというか。
かくして、音楽に浸って生きているFlorianは、散々浸っているくせに音楽を一瞬で減価償却完了と見なしてしまうようになってしまったのでした。


音楽を作るコストは、実は結構大きいです。そりゃ、プロ用のスタジオと同じことのできるシンセサイザーやアナログを介さなくてもマスタリングできるツールが一般的になって、だいぶ障壁は低くなりましたが、物を捻り出すのにかかるコストは変わりありません。むしろ、全体のクォリティが高くなっているため、適当なアレンジや演奏をするとそれが目立つようになってしまいました。
宣伝や広告、デザインのコストだって上がることはあっても下がることは余り考えられません。そのくせ、デビューする人は相変わらず多く、発売されるタイトルはむしろ増えています。
私に限らず、いつでも、どこでも音楽を聴くことができるインフラはiPodの流行で急激に整備されました。これによって、人口辺あたりの音楽に接しているのべ時間は増えていると思われます。
この状況においては、不特定多数の一般の人において、1枚のCDに対しての減価償却したと感じるまでの延べ時間は減る一方なんじゃないかという気が非常にします。すくなくとも、先に述べた通りFlorianの減価償却までの時間はすごく減っています。