ASTROBOY鉄腕アトム(PS2)SEGA,SONICTEAM

Havoc2を採用した国産初のゲームということで興味をもって買ってから幾星霜。なかなか遊ぶことができずにいましたが、ちまちまやってつい先日クリアしました。
いや、元から期待していた訳ではないんですよ。キャラ物だからとか、子供向けだからとかそういう理由ではなくて、純粋に開発期間とゲームの規模の兼ね合いの話で。
だって、セガ手塚プロの提携の話があったのが去年の5月。発売が3月だから、プレスの期間も含めて10カ月。純粋に開発期間で言うと8カ月を切るぐらいの間に、PS2でコンシューマレベルに作り込まれた作品ってのは、さすがに無理があります。あ、もちろん Florian がふだん作ってる作品はもっと早いですよ。でも、コンシューマの一般的なリソース量とは結構差があるし。

で、遊んでみた感想を。

  • 個人的にはおもしろかったけど、人には薦めづらい。

これですね、うん。

なにせ、力学的物理シミュレーションのHavocを使っているので、ゲームのあちこちにむだに世界を感じます。風が吹けば風の軌跡が空間の埃で感じ取れるし、その辺に落ちているいろんな物体に触れば、触った影響があちこちに伝播していくし。
グラフィックだってかなりいい感じです。フォーカルブラーとLOD(Level Of Detail。ソニックチームの人はLevel Of Distanceって言ってたけど)を駆使し、逆光やHDRによるヘイローもきれいに見え、何より、等身大の空中都市を、「きちんと大きい物」として書き切ったデザインと技術はかなり衝撃を受けます。都市がおもちゃのように見える空中から、吹き抜けの歩行者デッキに降りると、何事もなかったかのように人が歩いているのも、世界全体のスケールと人のスケールを考えるとかなりすごいです。
その辺を歩いている人はアニメ風味のシェーディングなのに、アトム達はスペキュラーやら環境マッピングまで使いまくってツルツルなのも、意図的にやっていると判れば確かに現実をどのレベルで捕らえているのかが判っておもしろいですし。
音楽だって悪くないです。PSOの小林さんがアニメのBGMを元に編曲した音楽も、レコーディングや音場に気を配ったいい曲ばかりです(個人的にはメトロポリス昼間のピアノが好き(^^))。タイトルとかで流れる主題歌のサキソフォン版は今一つですが、これは、メロディーがインストに向いてないからでしょうし。開発スケジュールのせいなんでしょうけど、個人的には「光の道」の方がよかったなぁ。・・って、「光の道」だとメロディーがあちこちのジングルに使いづらいか。
操作感もおもしろいです。マクロスもそうだったので、セガの芸風かもしれないのですが、ゆっくり移動する時には左レバーは平行移動成分を扱い、高速移動する時には左レバーはヨーとピッチを表現するというモード分けの操作になっています。どちらの状態でも、基本的に判定とかは変わらず、なおかつ高速移動状態ではばっちりアシストが入るので、操作に幻惑されることもあまりありません。なにせ、パワーがある時には高速移動ボタンを押しっぱなしにしているだけで特定の敵に対し自動的に加速をつけて体当たりし続けるのですから、ゲームに詳しくない人でも何か爽快な気がします。
個人的にはボス戦もおもしろかったですが、やっぱり白眉はメトロポリスのリング潜りですね。
ナイツを三次元機動にするとこうなるんだろうなと言うすばらしい自由度の空を飛ぶ感覚に、きちんと等身大のマップが遥か彼方まで見渡せるというぜいたくな作り。加速リングをくぐった時の目が回る感覚も捨て難いです。

にもかかわらず。

ゲームとしてはかなり微妙です。
多分、ボスとの戦闘をゲームの中心にもって行こうという意志が始めはあったのでしょうが、つくっているうちに気づいちゃったんじゃないのかなぁ。ボスだけだと、ゲームが短すぎで淡泊って事に。
(ここから先は妄想です。念のため)
で、仕方がないのでいろいろご褒美をつけることに。
本来ならばつける予定のなかった「カードのコレクション」を急遽でっちあげ、これに付随してお話をつなぐくらいの意味しかなかったメトロポリスのシーンや、お茶の水亭などにカードを隠すための仕掛けをたくさん用意して。とは言っても、ゲーム本編を下手にいじるとボスとの戦闘という一番の骨格にひびが入ってしまうので、シナリオスクリプト上のちょっとした細工だけでカードのクエストを実装したり。
・・そう考えると、ゲームにちっともからんでこない「犬の話を聞く」だの「なぞ文字解析」だの「100万馬力」だのが無理やり入っていたり、コマンド選択戦闘やら、100まで数えるやら、大気観測やらが無駄に入っているのも、「ここは無視してください。ホントは入れたくなかったの」という製作者の叫びが聞こえてくるかのようです。
後半のマップの「道中」が単調で無意味に長いのも、カードを取らせるためと、プレイ時間を長くするための苦汁の選択だったのでしょうし。
ここはやはり、見てほしくないだろう部分はサクッと無視して、力がかかっている部分だけでもきちんと見てあげるのが筋かなぁ、と。

遊べる部分と、遊ばせるための準備と、無駄な時間稼ぎの部分がそれぞれちぐはぐなため、結果的にどこをどう遊べばいいのか分からなくなった不遇のゲーム。
鉄腕アトム」(PS2)は、そんなゲームです。

同じような技術を使った、キャラのからまない(もうちょっとスケジュールに余裕のある(^^;))ソニックチームの新作を見てみたいです。
きっとおもしろいと思うんだけどなぁ。