秒速5cm(うそあらすじ)

うそですよ。
でも、私がまったく同じネタで書くとたぶんこうなる。
ネタバレ込み(1話だけ)。


Aが転校してきたのは小学5年生の時だった。僕も転校組であちこちを回っていたし、図書館の図書カードとか話も合ったし、バージェスモンスターの話で盛り上がったりもしたし、小学生らしいからかわれ方もしたけど、僕らは平気だった。
Aはいろんなことを知っていた。知っていたけど、体は弱く、いつでも体育は見学だった。
「秒速5cm」
「なに?」
「桜の落ちる速さ」
「ふーん」
「私ね、また転校するんだ」
Aが転校するのは北関東の小さな町だった。僕の住む東京からはそれは無限にも思える遠さに思えた。
それから僕らはよく手紙を書いた。読んだ本のことや、出会ったネコのことや、桜の落ちる速さについて。話の内容は何でもよかった。ただ話をしたかった。
さらに半年がたった。僕は鹿児島にまた引っ越すことになった。東京と北関東ですらもこれだけ遠い。引っ越しは終業式を待たずに行われる。
僕は一つの計画を練った。もちろんAもいっしょだ。東京を離れる前にただ一度だけAに会いたい。東京から北関東まで、電車の路線は繋がっている。乗り継げば7時には会える。
僕はその日、急いで家によって着替えると小田急線に飛び乗った。新宿、大宮、宇都宮、小山……。最初の電車に乗った時には小降りだった雪はどんどんひどくなり、それに従って徐々に電車は遅れていった。約束の7時がとうに過ぎ、いつになっても動かないローカル線の中に一人だけたたずんで僕は願った。
帰っていてくれ。こんな雪の中一人で待っているAを思うと胸が締め付けられるようだった。
そう思いながらも、もう一人の僕は切に願った。今会わずにどうする。今。今!
果たしてその駅にはAがただ一人狭い駅舎のベンチに腰掛けていた。僕は雪にまみれたコートを脱いだ。雪の結晶が、分厚いコートが秒速5cmで落ちていく。
「A、聞いてくれ。僕、ほんとは女だったんだ!」
コートの中には小学校の頃一度も袖を通したことのない冬服の女子標準服。基本的に私服の学校だし、体育の着替えも本人が気にしなければ結構ばれない。
「やだなぁ。私、先超されちゃったね」
Aは立ち上がった。詰め襟の学生服。中学の制服だろう。背なんか僕よりも高い。
「会えなくなっちゃう前に、どうしても伝えたくて」


「と、いうのが、パパとママの結婚のきっかけよ」
「ちょ、ちょっと待って、ママって、どっち(^^;)?」